超高齢社会を迎えた日本において、高齢者の健康寿命を延ばすことは重要な課題です。その中でも「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」、「フレイル」、「サルコペニア」は、加齢に伴う身体機能の低下を表す重要な概念として注目されています。これらの状態は相互に関連し、進行すると要介護リスクが高まるため、早期の評価と介入が求められます。本記事では、それぞれの定義や関係性について解説し、予防策について考察します。
ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、骨・関節・筋肉などの運動器の機能が低下し、移動能力が低下した状態を指します。日本整形外科学会が提唱し、主に以下のような特徴があります。
筋力低下や関節の変性により、歩行や立ち上がりが困難になる。
転倒や骨折のリスクが高まり、要介護状態へと移行しやすい。
運動不足が原因の一つであり、適度な運動習慣の確立が予防に有効。
フレイルは、健康と要介護の中間に位置する虚弱な状態を指し、身体的・精神的・社会的な要素が影響を与えます。日本老年医学会による定義では、フレイルには以下のような特徴があります。
身体的フレイル:筋力低下や歩行速度の低下がみられる。
精神・心理的フレイル:認知機能低下や抑うつ傾向がみられる。
社会的フレイル:孤独や社会的な関わりの減少がみられる。
フレイルの段階では、適切な介入により健康な状態へ戻ることが可能とされており、運動や栄養管理が重要な要素となります。
サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量の減少と筋力低下を指します。欧州サルコペニアワーキンググループ(EWGSOP)では、以下の3つの基準を満たす場合にサルコペニアと診断されます。
筋肉量の減少
筋力の低下
身体機能の低下(歩行速度低下など)
サルコペニアはフレイルやロコモと密接に関係し、特に高齢者の転倒リスクを高めるため、早期の評価と対応が求められます。
ロコモ・フレイル・サルコペニアは、すべて加齢に伴う身体機能の低下を示す概念ですが、それぞれに違いがあります。
サルコペニアは主に筋肉の減少を指し、フレイルやロコモの要因となる。
フレイルは身体機能の低下に加え、精神・社会的な側面も含む。
ロコモは運動器の障害が中心で、サルコペニアやフレイルが進行するとロコモのリスクが高まる。
このように、3つの概念は相互に関連しながら進行するため、包括的な予防・治療が必要です。
ロコモ・フレイル・サルコペニアを予防するためには、適切な運動・栄養・社会的活動が重要です。
運動習慣の確立
筋力トレーニング(スクワットやレジスタンストレーニング)
バランス訓練(片足立ち、ヨガ)
有酸素運動(ウォーキングやサイクリング)
栄養管理
たんぱく質を適切に摂取(肉、魚、大豆製品)
ビタミンDやカルシウムを補給(乳製品、小魚)
社会的活動の促進
地域活動やボランティアへの参加
家族や友人との交流を継続
ロコモ・フレイル・サルコペニアは、加齢とともに進行する健康課題ですが、早期の評価と介入により改善が可能です。運動・栄養・社会的活動の3本柱を意識し、高齢者の健康寿命を延ばすことが重要です。医療従事者として、患者に適切な情報提供を行い、生活習慣の改善をサポートすることが求められます。
日本整形外科学会. ロコモティブシンドロームの予防と治療. 2020.
日本老年医学会. フレイルの概念と評価. 2019.
European Working Group on Sarcopenia in Older People (EWGSOP). Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019.