walkviewの開発と
科学的根拠
walkview共同研究者
インタビュー
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)
小林 吉之 先生
三輪 洋靖 先生
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小林 吉之
産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
運動機能拡張研究チーム■略歴
- 2003 年3 月
- 早稲田大学人間科学部 卒業
- 2004 年3 月
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 博士前期課程 修了
- 2007 年3 月
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 博士後期課程 修了
- 2007 年3 月
- 博士 ( 人間科学) ( 早稲田大学)
- 2007 年4 月
- 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 流動研究員
- 2009 年4 月
- 日本学術振興会 特別研究員(PD)
- 2010 年7 月
- 産業技術総合研究所 研究員
- 2015 年4 月
- 同 主任研究員
- 2020 年4 月
- 同 研究チーム長 現在に至る
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三輪 洋靖
産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
サービス価値拡張研究チーム■略歴
- 1999 年3 月
- 早稲田大学理工学部機械工学科 卒業
- 2001 年3 月
- 早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻 博士前期課程 修了
- 2003 年4 月
- 早稲田大学 理工学部 機械工学科 助手
- 2004 年3 月
- 早稲田大学大学院理工学研究科生命理工学専攻 博士後期課程 単位取得退学
- 2004 年9 月
- 早稲田大学 先端科学・健康医療融合研究機構 生命医療工学研究所 客員研究助手
- 2004 年9 月
- 博士(工学) (早稲田大学)
- 2005 年4 月
- 産業技術総合研究所 研究員
- 2013 年3 月
- 同 主任研究員 現在に至る
walkviewの共同研究
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歩行分析の課題とニーズ 三輪先生
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、walkview をホーマーイオンさんと共同研究するにあたって、現在の歩行機能評価の方法と今後の課題や期待についての調査を行いました。まず、クリニックや急性期病院、回復期病院の先生方にインタビューを行い、ほとんどの医療機関が「体の左右の動きやバランス、歩行の安定性、関節角度」などの評価を行っていました。しかし、その評価ポイントについては先生方のお考えや患者さんの状況により少しずつ異なり、たいへん多くの評価指標が存在することがわかりました。現在の歩行機能評価は、それぞれの先生方の経験や、目で見ての観察に頼るところが多い状況でした。
産総研としては、この歩行機能評価を定量的に、なおかつ簡易に計測する手法を開発できれば、歩行機能評価を行っている現場のニーズに応えられるのではないかと考えました。現場ニーズ分析からスピード、
簡易性、コストを重視し機能を集約 三輪先生私ども産総研は、この調査により現場の方々からいただいたお声から、歩行分析の現状や課題、ニーズの分析を行い、製品開発のご提案をいたしました。
現状の医療施設における歩行機能評価の具体的な方法としては、大病院ではモーションキャプチャーや大型の計測機器を使っての詳細な計測・評価を行っているという事例がある一方、クリニックでは評価を行うための人手も場所も限られているため大型の施設や設備の導入は難しく、そういった環境の中で先生方がそれぞれ工夫をしながら評価を行っておられました。
また、その中から、診療時間の問題という重要な課題が明らかになりました。医師が一人の患者さんに費やせる時間というのは限られており、その時間の中で歩行機能評価を行うとなると、実際の診察・診療の時間がその分減ってしまう、機器の準備や操作だけで時間が過ぎてしまうといった問題です。
私どもは、歩行機能評価を行う設備として小型で簡易に、どこででも誰にでも使えるものがあれば、大病院・クリニックともにニーズがあるのではないかと考えております。さらにこれは、医療面全体においての課題、ニーズとも捉えております。どのような方法でどこまでの時間に抑えるのか、どれだけ準備を簡単にして使い勝手を良くしてゆくのか、それは限られたリソースの有効活用という意味でも重要で、できるだけ機能を絞りこんだシンプルで簡易に使用できる機器の開発は非常に大きな意味を持つと考えました。検討の過程では、我々研究者は「あれも出来たらいい、これも出来たらいい」と、欲張ってしまうこともありました。しかし、そう考えてしまうと、機器に搭載する機能はどんどん豊富になってゆくのですが、そこには必ずしも必要ないと思われる機能も盛り込まれてしまう可能性が出てくることになります。それは利用者の負担にもなりますし、当然、製造面などのさまざまなコストにもはね返ってきてしまいます。
歩行機能を評価してゆくという上で何が必要なのかを吟味し、必須の機能と優先度の高い機能を絞り込んで開発を進めることと、今は無くても良いが将来的には出来たら嬉しい、といった機能を吟味し、より分けるご提案もいたしました。
多くの病院が使用する指標を因子分析し選定
評価の三本柱
私たちはwalkview の歩行機能評価について、Harmonic Ratio( バランス)、速度、再現性(リズム)を三本柱として評価を行いました。評価のメインにはHarmonic Ratio を採用しましたが、速度についても非常にわかりやすいゴールドスタンダードの指標の一つだと思いますし、再現性も、やはり、こちらもHarmonic Ratio と同様に世界中で研究されているパラメーターです。これらはモーションキャプチャーのデータから算出した様々なパラメーターについて因子分析を行うことで、Harmonic Ratio と速度、および再現性に関する今回この三つの指標を評価の三本柱をという形で選定いたしました。
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三輪先生
医療機関への調査においても、それぞれの機関にさまざまな評価指標がありましたが、どの病院でも使っていたのは、やはりこの三つの指標によるものでした。ただし、評価方法が同じであっても医療機関によって使用されている用語が少しずつ違っていたり、また、例えば、速度の評価において、歩行速度なのか、歩幅を見ているのかといった見方の違いはありましたが、評価の要素としては小林の研究を裏付けるものでした。
Harmonic Ratio を採用した理由 小林先生
Harmonic Ratio は最近特に着目されている指標の一つであり、科学的なエビデンスもしっかりしていること、かつ、大変わかりやすいということが、walkview の歩行機能評価のメインにHarmonic Ratio を採用した理由です。
歩行評価で使用されている評価指標はさまざまなものがあり、その中でもHarmonic Ratio は、医療機関の先生方はもちろん、患者さん、もしくは一般の方も含めて、その指標による数値が出てきたときに、誰もがパッと見てわかるようなものになっています。
『PubMed』という、論文検索データベースで「Harmonic Ratio」というワードを検索すると、2024 年3 月時点で3700 件以上の論文などが検索に該当します。検索に該当する文献は、古くは1968 年からその研究が紹介されています。
その後の検索該当文献の数は右肩上がりで、特に2000 年代からその数が急激に伸びてきています。walkview で得られる
データの正確性、信頼性の検証 小林先生walkview での歩行機能評価の正確性、信頼性については、二つの観点で評価をしています。
一つめは科学的な妥当性があるかということです。先ほどの評価の三本柱にも関連いたしますが、walkview での歩行機能評価にHarmonic Ratio を採用したのは、それが世界中で非常に数多くの研究が行われている指標、信頼できる指標ということです。
二つめは、我々産総研では『歩行データベース』というものを作っておりまして、こちらは光学式モーションキャプチャーシステムという、体にマーカーを貼って歩いて計測をするといった歩行分析のゴールドスタンダードの評価方法ですけれども、このモーションキャプチャーによって計測したデータを蓄積した歩行データベースには、老若男女300 名分の歩行のデータの蓄積があります。そのデータを用いて、Harmonic Ratio、もしくはそれ以外の指標との関連性を分析し、実際の正確性と信頼性の評価を行いました。また、歩行データベースのモーションキャプチャーのデータと加速度センサーによって得られたデータの相関関係を分析しました。モーションキャプチャーシステムによって計測したHarmonic Ratio を横軸に、加速度センサーによって計測したHarmonic Ratio を縦軸に据えて非常に高い相関性を確認出来ました。Harmonic Ratio の学術的な優位性 小林先生
Harmonic Ratio は、先ほど来申し上げている通り、世界中の研究機関で使用されているパラメーターです。加速度センサーを使うだけで容易に計測ができ、左右対称性が高いか低いかということを数値で表す指標となっておりますので、とてもわかりやすく比較もしやすいところに学術的な優位性があると考えています。
基準値となりうるHarmonic Ratio を用いた様々な研究
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国内外の研究例 小林先生
Harmonic Ratio を用いた研究は、大きく分けて世界で四つのカテゴリーがあります。国内では我々産総研のほか、国立長寿医療研究センターの先生方とその関連の先生方が使用されており、特に理学療法士の先生方が多く利用されている印象があります。そこでの研究は、世界中で行われている転倒リスクの評価、変形性膝関節症の進行度合の評価、軽度認知症とそうでない方の評価、パーキンソン病での評価、肥満の有無での評価ができると報告されています。国外では、オーストラリアを中心とした研究グループがかなり古い段階からHarmonic Ratio を採用した転倒リスクの有無、整地と不整地を歩いたときの違いといった基礎研究を行っています。イタリアの研究グループは非常に理論的な研究が多く、Harmonic Ratio をよりわかりやすくための改良などを行っています。また、オランダにもHarmonic Ratioをよく使っている研究グループがあり、ここでは日常生活中にHarmonic Ratio を使用してその中でどういった評価が出来るのかという、やや挑戦的な研究を行っています。
これまでの研究では、我々産総研の研究でも健常成人だとHarmonic Ratio の計測値がおおよそ3 点台で、左右非対称性がさまざまな要因で落ちてくると低くなってくる傾向があります。walkview では計測値を100 点満点で表示する「i Harmonic Ratio(iHR)」を採用しており、健常成人の値は80 点台から100 点のところになってきますし、それが落ちてくると70 点台、60 点台というところが出てくるというイメージになります。Harmonic Ratio の年齢別データ 小林先生
国立長寿医療研究センターの土井剛彦先生が2016 年に投稿された「高齢者における体幹加速度から得られる歩行指標と転倒との関連性」という論文では、地域高齢者900 名以上を対象に転倒とHarmonicRatio の関連性について報告されています。
年代別にHarmonicRatio の比較がされており、65 歳から69 歳のHarmonic Ratio が3.24 だったのに対して80 歳以上になると2.77 に下がってくるように高齢ほどHarmonicRatio が低くなること、前後、左右、上下、いずれの方向でもHarmonic Ratio が落ちてくる、ということが報告されています。Harmonic Ratio の
OA グレート別データ 小林先生慶應義塾大学の飯島先生が膝OA 患者を対象にした論文では、膝OA 患者の重症度により、左右軸のHarmonic Ratio に有意な差がみられたと報告されています
Harmonic Ratio の
転倒リスク別データ 小林先生こちらは少し古いものになりますが、2003 年のオーストラリアの研究グループのもので転倒リスクに関する研究をしています。こちらの論文は転倒リスクを「Low risk、Moderate risk、High risk」という分類をしLow risk のHarmonicRatio(上下方向)が3.02 に対しHigh risk では2.22 と小さくなり、前後方向上下方向でも同じ傾向がみられています。このように、さまざまな特徴を持つ方、さまざまな疾患を持つ方も一様に、状況がより悪くなってくるとHarmonic Ratio も低くなるという特徴がある、といった指標になります。
walkview のメリット
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小林先生
同じく、やはり定量的に評価できるというところ、それを簡易に評価できることがwalkview の最大のメリットだと思います。今回walkview での評価方法について、Harmonic Ratio を中心にお話しましたが、それ以外にも歩行やほかのパラメーターも評価できるかたちになっていますので、様々な観点での歩行評価が簡易的に出来るところが大きな特徴だと思っています。
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三輪先生
walkview のメリットはやはり、センサーを使って定量的に評価が出来ることですね。もちろん、計測結果を扱われる医師やリハビリ関係者の皆様の知識や経験が非常に重要になりますけれども、その材料となる数値を定量的に出せるということは、そこに基づいてより安定的な評価が出来るようになり、それが診察・診療につながってゆくと思います。今後、walkview が普及してwalkview での計測値がたくさん集まってくれば、それが大きな知見につながってゆくと思います。このwalkview が簡易で使いやすい検査方法として広がってほしいと期待しています。
サブスクリプション
による提供現場のニーズに応えたアップデートが可能
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三輪先生
walkview は、サブスクリプションの形で提供されるということで、そのメリットとしては、特にソフトウェアのアップデートが可能になることだと思います。先ほども申し上げましたように、walkview に搭載される機能として、最初から必須の機能、今後あると良いといった機能、あったら嬉しいくらいの機能があります。次のステップとして考えられるのは、より詳しい運動の解析であったり、転倒による様々なリスク評価などをアップデートできれば良いと思います。 walkview の最大のメリットは、やはり簡易というところですので、機能が増えることによってシステムが全体的に重くなってしまうことは気を付けなければいけないと思います。もう一つ、サブスクリプションのメリットの一つとして、ユーザーの継続的な使用が挙げられます。お金を払ってくれる人というのは使ってくれている人で、実際の使用者数が継続的に目に見えてくるところも一つのポイントになりますし、使い続けてくれるお客様がいらっしゃるということは、そこから生まれてくるニーズや要望が出てくると思いますので、現場のニーズに合わせたアップデートが可能になると思います。
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小林先生
walkview がサブスクリプションで提供されるメリットは、やはりさまざまなところで使っていただくことによってデータが集まってくることですね。それにより機能がどんどん充実してゆくと思います。それによって、我々のこれまでの先行研究で、先ほども基準値についてお話しましたが、実際にこのwalkview を使っての基準値が出てくることを期待しています。また、アップデートとして提案した内容に関連いたしますが、いろいろな施設で基準値を作ってゆくにあたって、各施設で同じ使い方が出来るかというのも重要になってくると思います。walkview の機能面だけではなく、製品のサービス面でも使用の方法のレクチャーといいますか、「このように使ってくださいね」といった説明の機会も大切だと思います。これから、walkview がいろいろなところで使われてゆくと、「こんな使い方をしているの?」といったことも出てくると思いますので、実際の使用から見えてくる課題やアップデートの必要性がどんどん出てくると思います。そうして、だんだんと施設間での使用方法が同じになってゆき、評価の精度がどんどん高くなってゆくことを期待しています。
walkview は
良く出来ている!-
Harmonic Ratio の
転倒リスク別データ 小林先生私は、walkview は良く出来ていると、二つの観点で思っておりまして、一つがやはり、Harmonic Ratio だけではなく、歩行速度やリズムも一緒に記録できること、もう一つがビデオの映像を残せる機能があることです。walkview のシステム開発するにあたって行ったインタビュー調査の中でも、備考を残しておきたいという意見がありました。歩行記録と紐づけてビデオの映像を見直すことで、記録結果への疑問や課題が明らかになると思いますので、そういった観点でもこのwalkview は、データの取り込みや外れ値の除外がしやすい設計になっています。評価後に気付ける機能がちゃんと入っていると思います。