2023年6月取材【アーカイブ配信】
疾患別リハビリチームで専門性の高い治療を提供
ー地域の患者さんに寄り添って
●米木先生
相模原協同病院は、1945年8月に相模原北部の無医村を解消する目的で開院し、以来地域の皆様と共にその歴史を刻んできました。
開院当時20床であった病床数は現在400床となり、2021年の新病院への移転を機に、脳卒中センターや救急科の新設、循環器センターの強化などを行い、地域住民の健康増進の寄与に努め、皆様から「相模原協同病院に行けば安心だな」と言って頂けるよう日々努力しています。
近年の出来事として、当院が日本で初めて新型コロナ感染症患者の受入れ、治療を行ったことが大きな話題となりました。
ー当院心疾患チームの特徴
●米木先生
当院は急性期の総合病院で、心疾患・呼吸器疾患・脳血管疾患・運動器疾患といった、疾患別にリハビリのチームを組み、それぞれが専門性の高い治療の提供に努めています。
私たちは心疾患チームに所属している理学療法士で、心臓リハビリテーションを担当しています。当院には理学療法士(PT)が23名、作業療法士(OT)が7名、言語聴覚士(ST)が5名在籍しています。これは急性期病院の人数としては多い方だと思います。また、各々の専門性を高めるために、例えば「心疾患チーム」のスタッフは「心臓リハビリテーション指導士」などの外部資格を取得するような形で、日ごろから自己研鑽を続けています。
入院患者の早期離床に向けて
ーB-SESとの出会い
●米木先生
私は以前透析のクリニックに勤めており、その頃に同僚が北里大学でB-SESを使った研究を行っていて、その効果を目の当たりにする機会があり、詳細を聞いてとても良い製品だと思いました。そして私が当時勤めていたクリニックにも導入したいと考え、ホーマーイオンさんに連絡を入れさせていただき、そこでも患者さんからご好評いただきました。それ以前も、腎臓リハビリテーション学会などで見かけてはいましたね。
ー心臓リハビリテーションでのB-SESの活用
●米木先生
私たちは心臓リハビリのメンバーのため、主に心疾患で緊急入院を余儀なくされてしまった方を担当しています。近年は、早期離床が大事だと言われており、患者さんが入院して間もなく、主治医から離床の許可ないし指示が出ます。しかし、当院では入院される方の大半が75歳以上の後期高齢者で、その中でも特に心疾患のような内部障害患者さんは重複障害といって、複数の病態が非常に複雑に絡み合うため、単純に「さぁ、起きましょう」と言っても、介助なしには起き上がれない方が大半です。
当院の予備調査では、入院前には自立した生活をされていた方であっても、入院直後では、椅子から手放しで立つことすら、約半数が困難になっていました。病態が落ち着いて3日くらい経過したところで、もう一度椅子から手放しで立ってもらおうとしても、やはり3割ぐらいの方は手放しで自立できないという状態です。そういった状況に、何か手を打たなきゃいけないと考えていました。そこで、ベッドでの安静状態から介入できる手だてとして、B-SESの導入を検討し導入しました。現在は入院して間もない方で、離床したくても出来ないような方を中心に使用しています。
B-SESで下肢の筋肉量の減少を抑制
ーB-SESの実施時間と頻度
●松尾先生
B-SESの実施時間はひとり1日20分位を週5回の頻度で行っています。介入時期に関しては、リハビリ開始直後から実施することが多く、リハビリのオーダーは通常、入院の翌日若しくは翌々日に出ているため、その時に実施する場合が多く、また離床が進んでいない患者さんにも適宜、追加して実施しています。
電気刺激の強さに関しては、患者さんと会話をしながら患者さんに痛みがないかどうかを確認しながら行っています。一応の目安として、修正ボルグスケールの7を到達目標として、患者さんが耐えられる最大強度で実施しています。
使用するモードについては、基本は廃用症候群の予防が主目的ですので廃用モードで実施していますが、痛みが強い場合には代謝モードも使用します。
ーB-SESの使用効果を論文に発表
●松尾先生
私たちは独自に、患者さんに対して2か月間、B-SESの満足度調査を実施してみたのですが、その結果、調査対象の患者さんの76%が、B-SESをとても良い、または良いと答え、72%がまた使用したいと回答されました。
当院には再入院をされる患者さんが多く居られますが、前回の入院時にB-SESを使われた患者さんが再入院されたとき、「あれはやらないの?」といったような問いかけで、B-SESの使用をリクエストされる方もいて、患者さんから好評を頂いております。
また、私たちは6か月間、急性心不全の患者さんを対象にB-SESを使用した結果の筋肉量を測りました。その結果としてB-SESの使用によって、下肢の筋肉量の減少を抑制出来たことを論文にまとめてInt Heart Jに発表しました。先行研究の参考では、急性心不全患者さんの場合、2週間の入院期間で大凡10%から20%、筋肉量の減少が起こると言われています。我々の研究では、急性心不全の患者さん45人に対して2週間 B-SES実施した結果、下肢の筋肉量の減少を3.3%から8.8%程度抑制出来ました。B-SESによって、下肢の筋肉量の減少を抑制できる可能性を示す事が出来、臨床的にも効果があると思っています。
ー患者さんの精神面への変化
●松尾先生
B-SESの導入以前は、重錘等を用いた筋力トレーニングや歩行訓練に加え、エルゴメーターや他社のパット式の電気刺激装置を使った筋力訓練などを行っていました。
B-SESの特徴としては、患者さんの努力を必要としないというのもあると思います。もうひとつは、痛みが少ないというのもあると思いますね。他社のパット式の電気刺激装置は、痛みが出やすく使用を嫌がる患者さんが多く、こちらもなかなか継続してできるものがありませんでした。しかし、B-SESを使用すると電気的な痛みを訴える患者さんが少なくなり、むしろそれを気に入ってくれる方もいらっしゃいました。
●米木先生
患者さんは点滴や心電図モニターなどのたくさんのデバイスが身体につながっていて動き辛い状態にあり、運動することで心臓が苦しい状態にならないかと不安を抱えられる方も一定数いらっしゃいます。心臓リハビリテーションにB-SESを導入することによって、「寝ていて大丈夫ですから」「寝た状態でも出来ることがありますよ」といったご案内が出来るようになり、患者さんにリハビリの選択肢を与えてあげられることが出来て、患者さんの精神的な不安を取り除けるきっかけになっていると強く感じています。
セラピストの経験に左右されない簡易な操作
ー医療従事者から見たB-SES導入のメリット
●米木先生
B-SESの導入は、私たち心臓リハビリを担当する理学療法士にすごく大きなメリットがあります。理学療法士が心臓リハビリをする際に、患者さんの命を危険に曝すということはありませんが、患者さんの急変はいつ起こってもおかしくないため、やはりセラピストとしてリスクを層別化するための臨床経験や能力が必要になってきてしまいます。ですが、心疾患領域においては理学療法士養成校での臨床実習の到達目標が低めに置かれています。
そうなりますと、新人のセラピストであっても患者さんの健康や医療組織に貢献できつつ、セラピストの経験に頼らないで提供できる選択肢は物理療法が打ってつけですし、そのベストな医療機器はB-SES以外思い浮かびません。B-SESの使用はセラピストの経験値に関わらずに安全で再現性の高い効果を得られますので、新人のセラピストでも取り組みやすく、上級のセラピストが後輩の成長を見守りやすいというメリットをすごく感じています。
ー診療報酬や利用料
●米木先生
当院では、リハビリテーションでB-SESを活用した際の保険点数の算定は、疾患別のリハビリの中に包括するような形になっています。透析時運動指導等加算の算定は、現在準備をしている段階です。透析の患者さんに関わることがこれから増えていくかも知れませんね。
ーICUからの要望
●松尾先生
私はICUにも従事していますので、ICUの中で身体にデバイス類が挿入されていて動けない患者さんに対してもB-SESを使用したいと考えています。
ICUの患者さんはベッドアップが出来ないなどの制限があり、腰や足にベルトを巻けない患者さんも多くいらっしゃるので、こうしたICUでのB-SESの使用法のアイデアを教えて頂きたいです。
ー家庭用B-SESがあれば
●米木先生
B-SESについては、私は好意的なことしか浮かばないのですが、B-SESの筋肉量を維持する効果が急性期の心疾患患者さんにもあるというのは想定外でした。B-SESがその患者さんのADLですとか、身体機能に貢献するものとは思っていましたが、筋肉量そのものの減少を抑制する作用があったというのは、すごく良い、ホントに良いと思います。もし、その筋肉量を維持できる効果が実際に他の患者さんにも認められるというのであれば、予防的な医療としてB-SESを活用していきたいです。
具体的には、癌と骨粗鬆症に対してです。癌も骨粗鬆症も筋肉量が多い人ほど発症率が低いというデータがあります。また、健康維持のためにフィットネスを活用される方も増えていますので、例えば、スポーツジムや地域の会合、福祉分野などでも活用できたら良いと思います。そしてB-SESが家庭用にまでなったら最高だと思います。病院でB-SESを使用していた患者さんが、退院して家に帰ってあまり出歩かないような生活が続くと、すぐ廃用症候群に近い状態になってしまいます。自分で動かれるのが一番良いのですが、それが儘ならない方に対しては、病院の標準的な訓練に繋ぐブリッジのような役割で、家庭用B-SESがあればと思います。
私たちが高齢心疾患患者さんに行う標準的なレジスタンストレーニングは低負荷・高頻度な様式なので、筋肉量に作用するのはあまり期待できないと思っていましたが、B-SESの使用は、標準的なレジスタンストレーニングで得られる効果に勝るかもしれないと期待しています。そういった意味では日常生活のパフォーマンスに関わるところは、私たちが外来のフォローアップで対応し、筋肉量を維持することに関してはB-SESを使用するという役割分担ができればより良いと思っています。