近年、高齢者の健康維持において「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」が重要な課題となっています。ロコモとは、加齢や疾患に伴う運動器の衰えにより、移動機能が低下し、介護が必要となるリスクが高まる状態を指します。厚生労働省や日本整形外科学会もロコモ予防の重要性を訴えており、早期の対策が求められています。
本記事では、ロコモの定義や原因、診断方法、予防策について、エビデンスに基づいて簡単に解説します。
ロコモ(ロコモティブシンドローム)は、日本整形外科学会が2007年に提唱した概念で、運動器の障害によって移動機能が低下し、要介護になるリスクが高い状態を指します。主な原因として、骨や関節、筋肉、神経系の機能低下が挙げられます。
加齢により筋肉量が減少し、筋力が低下することで、歩行や立ち上がりが困難になります。
研究によると、65歳以上の高齢者ではサルコペニアの発症率が約10~30%と報告されています(参考:Cruz-Jentoft et al., 2019)。
骨密度の低下により、骨折しやすくなり、歩行困難や転倒のリスクが高まります。
骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折は、寝たきりの原因となることが多いです。
変形性膝関節症や股関節症は、関節の軟骨がすり減り、痛みや動作の制限を引き起こします。
特に日本人では変形性膝関節症の有病率が高く、女性に多くみられます(参考:Muraki et al., 2014)。
ロコモの診断には、日本整形外科学会が提唱する「ロコモ度テスト」が用いられます。
1. 立ち上がりテスト(ロコモ度1)
40cm、30cm、20cmの高さの椅子から片足または両足で立ち上がるテスト。
20cmの椅子から両足で立ち上がれない場合、ロコモ度1と判定されます。
2. 2ステップテスト(ロコモ度2)
両足をそろえた状態から最大2歩でどこまで進めるかを測定。
計算式:「2歩幅(cm) ÷ 身長(cm)」が1.1未満の場合、ロコモ度2と判定。
3. ロコモ25(ロコモ度3)
25項目の質問票を用いて移動能力を評価。
合計スコアが16点以上の場合、ロコモ度3と判定。
ロコモは適切な運動や栄養管理によって予防・改善が可能です。
1. 運動療法
・スクワット(下肢筋力強化)
・片足立ち(バランス能力向上)
・ウォーキング(持久力向上)
2. 栄養管理
・タンパク質(筋肉量維持)
・カルシウム・ビタミンD(骨密度維持)
・抗酸化成分(関節の炎症抑制)
ロコモとは、運動器の衰えによって移動能力が低下し、要介護リスクが高まる状態を指します。診断には「ロコモ度テスト」が有用であり、適切な運動や栄養管理を行うことで予防・改善が可能です。