2022年7月取材【アーカイブ配信】
運動習慣のない高齢患者様にも運動療法を行うためB-SESを導入
ー施設の特徴
当院は、透析センターとして1996年4月に開設され、透析ベッド数は148床あります。透析室にはフットケア室も備えてあり、足の健康を守る取り組みも積極的に行っています。
ーB-SES導入時の課題と背景
当院に通院されてくる方は、透析導入時や長期の透析療法による合併症等を持つ患者様が多いです。透析患者様の高齢化は全国的にも進んでいて、サルコペニアやフレイル対策の必要性は以前から指摘されています。当院に通院する患者様の平均年齢も69.6歳と、後期高齢者の割合が高いです。
ここでの患者様に多く見られる身体機能の低下は、加齢に伴う筋力の衰えであり、それが徐々に進むと日常生活に支障を来して要介護状態になります。そのため、日常生活の支援や様々な介護支援が導入されますが、中には家庭内での介護が困難となり、当院への通院を断念しなくてはならない方も少なくありませんでした。
当院では、このような高齢の患者様に多く見られるサルコペニアやフレイルに対する対策を早期に取り組み、健常な状態を維持して、患者様が安心して通院透析を受けられる状態をサポートしていきたいと考えていました。
サルコペニアやフレイルの予防には、十分なタンパク質の摂取や有酸素運動、レジスタンス運動が有効とされています。そのためには、栄養管理とともに、患者様それぞれが自身の状態と生活スタイルに合った運動療法を行うことが必要となりますが、運動習慣のない高齢患者様にはなかなか難しいです。そのために2019年から、透析中に自分で筋肉を動かさなくても電気刺激で筋肉に刺激を与え、筋収縮の感覚を得られるB-SESを導入しました。
B-SES後の末梢血流量の増加より末梢動脈疾患の予防にも期待
ーB-SESの利用目的と目指す効果
B-SESの利用目的としては、介助歩行者やシルバーカーの利用者等の下肢筋力低下の予防、車椅子利用者の下肢筋力維持です。あとは、腰痛など身体に痛みのある方や、長距離の歩行が困難な高齢の方に利用いただいています。目指す効果としては、B-SES導入初期は、下肢筋力の維持とアップ。それから、腰痛や下肢の痛みやしびれなどの軽減と、患者様のADL改善を目指していました。
また、患者様の下肢血流評価、末梢動脈疾患重症化予防の評価として、毎月、簡易的な末梢血流量の評価も一緒に行っています。B-SESを行った後の末梢血流量の測定値が、B-SES前の値より増加していることから、電気刺激による筋肉の収縮が末梢の血流量増加に寄与していると考えています。そのため、末梢動脈疾患の予防にも期待できるのではないかと思います。
ー患者様からの評価
患者様からは、「以前より、立ったり座ったりするのが楽になった」「足が軽くなった」「歩行が楽になった」「膝の痛みが少し良くなった」「足の痛みや、しびれも軽減した」「散歩などの外出する機会が増えた」「足の循環が良くなったような気がし、ぽかぽかする」「今まで足の筋肉が硬い感じだったが、それが良くなった」などの声があります。それから、「腰に力が入るようになって動きやすくなった」という意見もありました。
B-SESの実施目的を毎月評価
ー1日の診療の中での運用状況
B-SESは透析治療中で、血圧が安定している透析開始の30分から2時間の間に行っています。1日のB-SESの実施する患者数は、おおよそ昼間の最大は5人、夜間は2人の1日最大で7人ぐらいです。
ー時間や頻度、使用モードなどの実施方法
1回の治療時間は20分にしています。毎透析日に患者様の「足が痛い」「しびれがある」「力が入らない」などの意見を参考にしながら、モードや強さなどを相談します。
実施の際、患者様のその日の反応を見て、「次はもうちょっと頑張って、いきましょうか」などと声掛けをして、患者様が頑張って上げられる範囲で上げていくという感じで行っています。腰の痛みなどで、力が入らないような方は、代謝モードで実施しますが、基本的には廃用モードの方が多いです。
B-SES自体は毎月評価を行っていて、その評価の結果を医師に報告して、継続するかどうかを決めています。患者様の症状で、例えば「今ちょっと歩きにくいのが歩きやすくなっている」や「痛みが取れてきた」、「しびれがちょっと良くなってきた」というような評価です。評価表にはB-SESの目的が書いてあり、その目的に対して評価を行っています。
B-SESを気に入ってやり始めた患者様では長くて、1年、2年、3年と続けてやっているケースもあります。透析歴43年目の患者様のB-SESの効果では、以前はアミロイド沈着していて関節変形があり、足の筋肉量が落ちて自立歩行が危うくなった時期がありましたが、B-SESを開始して1年過ぎた頃から少しずつ、足腰に力が入るようになって、今もシルバーカーを押して歩けています。
透析時運動指導等加算の保険適用を踏まえ、B-SESを活用した新たな取り組みを推進
ー現在の診療報酬や利用料
診療報酬については、当院ではリハビリテーションでの算定ができないので、消炎鎮痛処置(器具等)の35点で算定しています。B-SESを行う対象は主に、閉塞性動脈硬化症や脊柱管狭窄症などの疾患をもつ下肢筋力低下のある方に対し勧めています。
ー透析時運動指導等加算の保険適用への対応
算定要件の中に、「透析患者の運動指導に係る研修の受講が必要」とありますが、当院はまだ、この算定要件を満たしておりませんので、まず算定に必要となる当該研修を受講する必要があります。当院では、今年度から新たに運動指導委員会というものを立ち上げており、受講者は、この中のメンバーを対象に考えています。
それから、日本腎臓リハビリテーション学会の腎臓リハビリテーションガイドラインを参考に、B-SESを含めた、当院で実施可能な腎リハを進めていきたいと考えています。また、透析中の運動指導は新たな取り組みとなりますので、患者様には腎リハの必要性についての案内もしていきたいと考えています。
B-SESのメリットは、運動習慣のない方でも、毎回一定量の筋力強化が行えること
ーB-SES導入のメリット
これまで、透析中に実施できる筋力トレーニング方法について、いろいろと模索していました。B-SESを導入することによって、運動習慣のない患者様に対しても、治療に影響なく受動的に一定量の筋力強化を提供できるというのがメリットだと思っています。
B-SES以外の自己で行う運動だと、「今日はもう、これぐらいでやめておこう」というように、自身の加減によって筋力トレーニングの内容が調整できてしまいます。B-SESだと一定量、決まった処方ができ、毎回同じ治療時間の筋力トレーニングを継続してできるというところがいいですね。